Liner Notes

Interview #1 (32 MB)Interview #2 (34 MB)

STEAL / Bring the Light ライナーノーツ

written by 篠原良一郎

▼イントロダクション

広島で活躍するアレンジャーユニットSTEAL

これまで地元アーティスト、渕上里奈、MMJ、COUNTERBLOW、槙氏、大瀬戸千嶋など多数のアーティストの楽曲をシンガーソングライター、アイドル、ロック、JAZZ、POPと幅広く手がけてきた。

その彼ら自身の作品が実に12年ぶりにリリースされた。

これだけの時間を要したのは、メンバーの結婚や育児、メインボーカリストの再発掘など、STEALが求める音へのこだわりと自身の音楽活動をする上での環境の変化があった。 社会人としての音楽活動という側面、新型コロナ禍という予想だにしない局面と、あらゆる要素により12年という月日が流れていた。

その状況の中でSTEALの創造力は宇宙へと飛び立つ。 一度失った音楽制作環境を1から再構築するにあたり、STEALが選んだステージとして、宇宙というものはまさに適切な場所であり、放たれた想像力や希望、野心といったものをしっかりと受けいれ、また一つの創造に導くに最適なテーマであった。

#Track01 「Voyager」

無人探査機「ボイジャー1号」
1977年NASAが打ち上げた有名なこちらをテーマに、さまざまなサウンドが交錯するイントロインスト楽曲。

ボイジャーは今その役目を終え宇宙に新たな知的生命体に出会うというミッションを帯びて漂い続けている。

ボイジャーにはその永遠の任務のため「ゴールデンレコード」が装備されている。

これは地球外知的生命体に向け人類の当時の文化を収録したレコード(記録媒体)で、アメリカ合衆国第39代大統領ジミー・カーターは「私たちの音、科学、映像、音楽、思考、そして感情の証であり、小さな遠い世界からのプレゼントです。私たちは、あなた方の時代にも生きられるように、私たちの時代を生き抜こうとしているのです。私たちはいつの日か、直面している問題を解決して、銀河文明の共同体に加わることを望んでいます。このレコードは、私たちの希望と決意、そして広大で素晴らしい宇宙における私たちの善意を表しています。」と記録している。

STEALからの12年ぶりのファーストコンタクトに込めた思いを、私たちは今、受け取ることになる。

この中で語られる宇宙飛行士の交信には意味があり、「I」はSTEAL須藤自身であり、「You」はギタリスト砂原のことを指す。この伏線がアルバムラストに向けて重要な意味を持つことになる。

#Track02「Bring the Light」

トランスやハウステクノ的なトラックにロックギターがテクニカルに交錯する楽曲。 STEALがようやく見つけたシンガーmomoの歌声がハイトーンかつ図太く強くサウンドの芯を貫いている。
シンガーmomo自身、結婚や育児を経験した12年間を経ての参加であり、レコーディングには深夜家事や育児が終わった後に一人で歌詞に向かうという方法で取り組んできた。

STEALが12年間探し求めていた声もまた、この間音楽から一次的に離れつつ、再び音楽と向き合う機会を模索していた存在。彼らの出会いには新たな作品を生み出す知られざる熱意と決意がそこにあった。だからこそリードトラックである「Bring the Light」はひときわ強い光を放っている。音楽に対するブレない思いがこの楽曲の軸にあるものだ。

この曲にもよく現れているが、砂原氏のギターは非常にテクニカルであるにもかかわらず今作では控えめなスタンスを保っている。これは本人曰く「須藤が作る曲を楽しみにしていた」からであり、見守る立場でこのアルバムの成り立ちを見ていきたいという本作へのスタンスがよく現れた表現であり、そのことで逆に彼のプレイはひときわ際立って曲全体を内包している。

#Track03「Dark Matter」

新型コロナ化の憂鬱、自分達の音楽活動が思うようにできないでいた時間の陰鬱が込められた楽曲でありながら、暗闇の宇宙空間を駆け抜けていく疾走感。孤独を跳ね除ける情熱の力が漲っている。

「太陽と死だけは直視できない」
フランス17世紀の文学者でモラリスト、ラ・ロシュフーコーの残した名言が歌詞に引用されている。

文学における2大テーマである「愛」と「死」を表現しており、直接的には見えないものを間接的に見ること、早く言えば感じることはできるという言葉であり、死があるからこそ愛が光る。 愛することを考えるときに、死そのものを表現することができるという、愛するものの存在、父や母になって感じた感情の底知れぬ力。

歌詞の中に「ただ一人静かに消えたい」という愛や希望を否定する言葉が入っている。 だがこれは先ほどのラ・ロシュフーコー名言からの引用にあるように、希望を失いかけ、音楽人としての死を感じた上で見えてくる愛、再起に直結した表現なのである。

この曲は12年という時間が育んだ今の自分達にしか表現できないあらゆる感情を詰め込むことで、「何があっても、闇を駆け抜けた先に光を見つけて行こうとする力に変えることができるはずだ」という意思の現れた曲である。

#Track04「Zer0 Gravity」

STEALが今作のゲストボーカリストmomoに全作詞を委ねた1曲。
文字通り無重力を表現するため夜な夜なmomoは作詞に奮闘した。

3曲目の「DarkMatter」での憂鬱を無重力を感じながら跳ね除けていく。 それはいわば目標が定まらなかった時間、方向性に一つの目的地を与えるという作業であり、この楽曲が向かう先にこそ、彼らのたどり着く旅の終着点が見えてこなければならない。 この難題に、やはりこの12年間音楽から遠ざかりつつも、一つの線を手繰り寄せるように、STEALとmomoの点と点が繋がりあった瞬間に生まれてきた楽曲だ。

「無重力浮かぶ音の海」というフレーズ然り、さまざまな可能性から一つを生み出し方向性を決めていくという、最適な目標とは何か? このテーマが楽曲全体にあり、そのことで溢れ出した思いが聞く人の胸に響き、強い力になって心震わすという、非常にコンセプチャルかつスピリチュアルな波動のある歌となった。

#Track05「“Journey” Into the Universe」

このインスト曲を聴いたとき、ポール・オーケンフォルドであるとか、トランスの大御所の名前が頭をよぎった。それくらい世界照準なトランスでスピーディーな1曲である。

須藤氏のやりたいことを全て詰め込みつつ、このアルバムのテーマ性を大きく広げることに役立っている楽曲で、音楽人生という「旅」が作り続けることだけでなく、休憩を余儀なくされるときにも思いは広がり創作は続いていくという、クリエイティブな人生に捧げられた1曲となっている。

#Track06「Spacecraft」

全英語詞。
1曲目、イントロトラックで交信していた宇宙飛行士の思いへとストーリーは繋がってくる。 この曲の流れは見事で、5曲目の須藤氏のインスト曲から出ないといけないのだ。

というのも宇宙飛行士の「I」は須藤氏のことを指しているからである。

自分という存在「自我」と他者「外界」との交わりを模索する須藤氏の葛藤が、美しい地球を見つめる宇宙飛行士の想いと重なるのである。 12年の葛藤を具現化するときにそばにいた仲間(砂原氏) 新たな発見であるmomoというシンガーとの出会い。

須藤氏曰く「まるで銀河の輝きのような、時には眩しく見える他者と自分の立ち位置に戸惑いながらも、自分の目標に向かって進んでいく気持ち。」を見事に表現している。

思いやりや配慮、気遣いであるとか、今この星(地球)に一番必要で重要な感覚を保とうとする、無限の宇宙、無重力での取り組み=12年間の葛藤を持って、もう一度母なる大地にSTEALは降り立とうとしている。自分達の音楽をこれから受け止めてくれる人々の元に、愛情を持って歌を届けるために。

#Track07「Re-Entry」

大気圏突入を意味するタイトル通り、STEALからのギフトがこの星に持ち込まれることになる。 これを指して、もう1度自分達の音楽活動を再開するという宣言をしている。

1曲目の宇宙飛行士との交信の伏線、須藤氏を「I」、砂原氏を「YOU」とした伏線が回収された。

自分達が帰る場所は変わらずにここにある。
「愛」や「友情」、何より音楽を共に作っていける仲間は間違いなくここにいる。

3曲目「Dark Matter」で否定された表現となる「愛」への答えであり、 待っていてくれた全ての人たちへの思いのこもった贈り物が、アルバム「Bring the Light」

映画のラストシーンを思い起こさせるこの曲。実は今回アルバム収録には不採用となった楽曲のため急遽作成した楽曲でありながら、壮大かつアルバム全体の構成を締めくくるにふさわしい躍動感あるマーチとして仕上がった。

…話は最初に戻ってボイジャー1号のゴールデンレコード。
私たちは日々の生活の中で、広大な宇宙に比べれば非常に小さな世界で生きている。
しかしながらボイジャーのレコードに記載された「小さな遠い世界からのプレゼント」という言葉にもあるように、人と人の思いが繋がりあって愛や平和を日々説いている。

隣り合う人々、すれ違う人々の持つ「小さな遠い世界」が交錯するときそこの生まれる変化が日常を変えていく。

昨日までは無かった歌がこの世に生まれるという奇跡を、STEALはアルバムを通して見せてくれたのだ。

「私たちは、あなた方の時代にも生きられるように、私たちの時代を生き抜こうとしているのです。私たちはいつの日か、直面している問題を解決して、銀河文明の共同体に加わることを望んでいます。このレコードは、私たちの希望と決意、そして広大で素晴らしい宇宙における私たちの善意を表しています。」

アメリカ合衆国第39代大統領ジミー・カーター